レッドリボンさっぽろのブログ

HIV陽性者・AIDS患者との共生と差別・偏見のない社会の実現を目指し、北海道で活動をするNPO法人レッドリボンさっぽろの公式ブログです

【HIV不当内定取消訴訟】原告本人尋問のご報告

現在、札幌地方裁判所で係争中の【HIV不当内定取消訴訟】について、原告の弁護を担当している加藤丈晴さんに寄稿いただきました。

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弁護士の加藤です。

2019年6月11日(火)に、札幌地方裁判所で、HIV不当内定取消訴訟の原告本人尋問が行われました。

原告は、まず原告代理人からの質問に応じて、ソーシャルワーカーを志すようになったきっかけ、被告病院の求人に応募したきっかけなどについて語りました。さらにHIV感染の事実を知り、その後差別をおそれて感染を誰にも告げずに生活してきたこと、周囲の感染者が、医療の道をあきらめたり、突然の異動など差別的な扱いを受けた話を耳にしてきたことを話しました。

原告は、HIV感染の事実を誰にも告げていなかったため、自ら差別を受けることはありませんでしたが、唯一差別を受けたのが、被告病院においてでした。原告がHIVに感染していることを知った医師は、手術着のようなものを着て、ラテックスの手袋をはめて現れたのです。

その後話は、原告が被告病院の面接での話に移ります。原告は、面接担当者から、持病や服薬している薬のことを聞かれました。しかし、彼はHIVのことに触れることはありませんでした。このことが、のちに内定取り消しの理由とされることになります。

原告のカルテから原告のHIV感染を知った被告病院は、原告に「話が違う」と問い詰めます。原告は、とっさに感染の事実を否定します。原告は、原告代理人からこの時迷いはなかったかと聞かれて、「ありました。」と認め、「HIVのことを知らない人からは、差別的な扱いを受けるのではないかという恐怖感があるんです。」と、その思いを述べました。

原告は、就労に問題はないとの主治医の診断書を被告病院に提出しますが、結果は内定取り消し。原告はその時の気持ちを、「一番病気のことを知っているはずの医療機関からそのようなことを受け、がく然としました。そこまで医療従事者に知識がないのかと。」と答えました。

原告代理人から、最後に、提訴に踏み切った意義について聞かれると、原告は、「私の仕事は、人の人権を守る仕事です。自分の人権も守れないような人間に、ソーシャルワークなんかできない。そう思って裁判をしています。」と力強く語りました。「私の人権は、被告の病院に……殺されました。私の、人権を返していただきたいです。」という原告の最後の言葉は、いつまでも私の耳に残っています。

これに対し、被告代理人からの反対尋問は、HIVに対する偏見、差別意識を露呈したひどい内容のものでした。ここに詳しく挙げるのは控えますが、「面接の際に虚偽申告、うそをついたことを理由に内定を取り消したことが、なぜ人格の否定にあたるのか。」とか、「日本社会はHIVに対する差別や偏見が強いというが、感染していない人が感染者からウイルスをうつされたくないと思うのは差別や偏見なのか。」という被告代理人からの質問は、差別をおそれてHIV感染の事実を告げられないHIV感染者の現実も、治療を受け、ウイルスが検出限界以下であれば感染しないという医学的な知見も無視したものでした。被告代理人の意見を原告に押し付けるような質問の応酬に、たまらず異議を出しました。

判決は、2019年9月17日(火)に言い渡されます。裁判所は、被告病院が医療機関でありながら、HIVに関する無知、偏見に基づく差別を行い、原告の人権が侵害された事実を直視し、同じような立場の人の支えになりたいとの思いで勇気をもって提訴した原告の思いを受けて、適正妥当な判決を出していただきたいと思います。

最後に、今回の原告本人尋問には、20名を超える方々に傍聴していただき、原告を応援していただきました。尋問後の報告集会にも、傍聴されたほとんどの方と、尋問に間に合わなかったものの、原告をねぎらいたいとの思いを持った方々が集まり、当日の尋問を振り返りました。皆さん原告の力強い言葉に感銘を受けたという感想とともに、被告代理人からの質問について非難の言葉を口々に述べておられました。

尋問を傍聴していただいた方、報告集会にご参加いただいた方を含め、この裁判を応援してくださっているすべての方々にお礼を申し上げるとともに、勝訴判決が確定するまで、引き続きこの裁判を応援していただきたいと思います。

弁護士 加藤丈晴